Xについて(1)

X、もしくはX JAPANの話は、いまだにうまく書けないことの一つだ。

基本的にTOSHIは、歌が下手だ。和声には強いが、縦が合わない。しかし彼は彼にしか出せない声質を持っていて、それがYOSHIKIのある種のメロディーに触れたときに化学反応を起こすのだが、TOSHI自身はその化学反応を自覚できず、コントロールする力がない。一方、HIDEはギターに色々な引き出しを持っていて、その引き出しの一つがYOSHIKIのある種のメロディーに触れたときに、やはり化学反応を起こす。しかし、HIDEはHIDE自身がその化学反応を自覚し、時にはYOSHIKI以上にコントロールしてみせる。この二つのコントラストがXの明と暗であり、成功と悲劇の要因であったと思う。

"Vanishing Vision"までのTOSHIは天から振ってくるようなハイトーン("Break the darkness"などで聴ける)が出せて、声量もあったため上から叩きつけるような歌い方ができた。そのせいか縦が合わない印象もそれほどなかった。しかしその後のツアーとレコーディングで喉を痛めてしまい、その弊害は本来声質の影響しやすいバラード調の曲よりもむしろ"Standing Sex"のような曲において「ノリの悪さ」として出てしまう。"Stab me in the back"もインディーズ時代の録音に比べると、録音も含めた周り全てのレベルがあがっているにも関わらず、ボーカルだけはインディーズ時代のほうがいいという始末。

今思えば、SONYは契約直後の段階からTOSHIに専門的なボイストレーニングと歌のトレーニングをさせるべきだった。実際は"Blue Blood"のレコーディング後、喉の手術後になってしまい、それでは少々遅かった。思うにSONYはXを一過性のバンドとしか見ていなかったのであり、使い捨ての扱いだったのだ。我々はこういう先見性のなさが蔓延する社会に生きている。自分の才能は誰かに見いだしてもらうことを期待するのではなく、自分で伸ばさないといけないという教訓。