評価基準の推移を計算に入れること

料理であれ映画であれ何であれ、一定の基準で評価していくのは難しい。十年前に素晴らしいと思ったものを、今でも同じ水準で素晴らしいと思うものか、という問題がある。

以前述べたが、久々に読み返した池澤夏樹の「スティル・ライフ」は十年前に読んだときほど清々しく感じなかったし、逆に十五年振りに観た映画「薔薇の名前」は、当時も面白いと思っていたのだが、今観直すと更に細かいところで優れている点に多々気づかされた。一時期、観た映画に五段階の評価を付けていたことがあるが、観た時期によって、同じ評価の映画でも位置づけが変わってくるようだ。

ロビン・ウィルソン著「四色問題」によると、数学者のパーシー・ジョン・ヘイウッドは「一年に一度、クリスマスの日にしか時計を合わせないということだった。時計が狂うペースを心得ていた彼は、時刻を知る必要があるときには、いちいち暗算をしていたのである」と書かれている。芸術の評価も同じやり方が有効かもしれない。